不動産投資の新たな可能性として、シェアハウスと民泊の併用運営に注目が集まっています。空室対策や収益性の向上を目指す不動産オーナーの皆様にとって、この運営方式は魅力的な選択肢となる可能性を秘めています。

この記事では、シェアハウスと民泊の併用運営に関する重要なポイントを、法律面から実務面まで詳しく解説します。
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シェアハウスと民泊の併用は可能?

シェアハウスと民泊の併用運営を実現するためには、法的な要件と適切な運営体制の整備が重要となります。

以下では、具体的な要件と実務的なポイントについて解説します。

旅館業法の許可取得が必要

民泊運営には旅館業法に基づく許可が不可欠です。シェアハウスの一部を民泊として活用する場合、簡易宿所営業の許可を取得する必要があります。許可申請には以下の要件を満たす必要があります。

まず、建築基準法における用途変更の手続きが求められます。シェアハウス部分と民泊部分では建築基準法上の用途が異なるため、民泊として使用する部分については用途を変更する必要があります。

次に、消防法の基準を満たすことも重要です。民泊部分には消防設備の設置が必要となり、具体的には自動火災報知設備や誘導灯などの設置が求められます。また、定期的な消防設備点検も必要です。

保健所による衛生面の審査も必要となります。寝具類の管理や清掃方法、換気設備など、宿泊施設としての衛生基準を満たす必要があります。宿泊者の健康と安全を確保するため、具体的な衛生管理計画の策定も求められます。

さらに、玄関帳場(フロント)の設置も重要な要件となります。ただし、一定の条件下では無人化や遠隔対応が認められる場合もあります。この場合、防犯カメラの設置やオンラインチェックインシステムの導入が必要となります。

建物の区分けと専用設備を確保する必要もある

シェアハウスと民泊の併用運営では、建物内での明確な区分けと必要な設備の確保が重要となります。これにより、シェアハウス入居者と民泊利用者双方に快適な環境を提供できます。

まず、シェアハウス部分と民泊部分の動線を完全に分離する必要があります。具体的には、出入口や階段、廊下などの共用部分を可能な限り分けることで、相互の生活に支障が出ないよう配慮します。

水回り設備の区分けも重要です。民泊部分には専用のトイレや浴室、洗面所を設置することが望ましいです。これにより、シェアハウス入居者の生活に影響を与えることなく、民泊利用者に必要な設備を提供できます。

キッチンについても、可能な限り専用設備を設けることをお勧めします。民泊利用者用のミニキッチンを設置することで、シェアハウスのキッチンを共用する必要がなくなり、入居者との摩擦を防ぐことができます。

防音対策も重要な要素となります。民泊利用者の滞在が入居者の生活に影響を与えないよう、壁や床に防音材を使用するなどの対策が必要です。特に深夜や早朝の騒音に配慮した設計が求められます。

セキュリティ面では、各部屋や共用部分に電子錠を設置することをお勧めします。入居者と宿泊者それぞれに専用のアクセス権限を付与することで、建物内の安全性を確保できます。

また、インターネット環境についても区分けを検討する必要があります。民泊利用者用の専用Wi-Fiネットワークを設置することで、セキュリティリスクを軽減し、快適なインターネット環境を提供できます。

収納スペースについても、民泊部分には専用の収納設備を設けることが望ましいです。清掃用具やリネン類、消耗品などを適切に保管するためのスペースを確保することで、効率的な運営が可能となります。

シェアハウスと民泊併用のメリットとは?

メリット

シェアハウスと民泊を組み合わせることで、運営者と利用者双方に様々な利点が生まれます。以下では、具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。

リスク分散による経営安定化につながる

不動産経営において収入源を複数持つことは、安定した経営を実現する重要な要素となります。シェアハウスと民泊の併用運営により、その効果を最大限に引き出すことができます。

中長期の安定収入が見込めるシェアハウスに加えて、季節や時期による変動性のある民泊収入を組み合わせることで、収益構造に柔軟性が生まれます。たとえば、観光シーズンには民泊需要を最大限に活用し、オフシーズンにはシェアハウスの安定収入で経営を支えることが可能となります。

さらに、シェアハウスの空室期間を民泊として活用することで、稼働率を向上させることができます。このように、両者の特性を活かした運営により、経営リスクを軽減しながら収益性を高めることが可能です。

インバウンド需要の取り込める

観光立国を目指す日本において、外国人観光客の受け入れは重要な課題となっています。シェアハウスと民泊の併用は、このインバウンド需要を効果的に取り込む手段として注目されています。

まず、民泊部分では短期滞在の観光客を受け入れることができます。一方で、シェアハウス部分では留学生や外国人労働者など、中長期滞在者向けの住まいを提供できます。このような多様な受け入れ体制により、幅広い外国人需要に対応することが可能となります。

また、外国人観光客特有のニーズにも柔軟に対応できます。多言語対応のサービスや文化体験プログラムなど、付加価値の高いサービスを提供することで、施設の魅力を高めることができます。

コミュニティ形成の活性化につながる

シェアハウスと民泊の併用は、新たな形のコミュニティ形成を促進します。異なる背景を持つ人々が交流することで、豊かな文化交流の場が生まれます。

シェアハウス入居者と民泊利用者が交流できる共用スペースを設けることで、自然な形での国際交流が生まれます。日本人入居者にとっては語学力向上の機会となり、外国人観光客にとっては日本の生活文化を体験する貴重な機会となります。

このような交流は、地域の国際化にも貢献します。地域住民との交流イベントを開催することで、国際理解を深め、多文化共生の実現に向けた取り組みとなります。

物件価値向上へつながる

不動産市場における差別化要素として、シェアハウスと民泊の併用は物件価値の向上に寄与します。従来の賃貸物件とは異なる独自の魅力を持つことで、競争力の強化につながります。

設備面では、民泊運営に必要な高品質な内装や設備が、物件全体の資産価値を高めます。防音性能の向上や最新のセキュリティシステムの導入など、ハード面での充実は物件の競争力強化につながります。

運営面でも、プロフェッショナルな管理体制の構築が求められます。これにより、物件の維持管理水準が向上し、長期的な資産価値の維持・向上が期待できます。さらに、独自のコミュニティ形成や文化交流の場としての価値は、物件の付加価値として評価されます。
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シェアハウスと民泊併用のデメリットは?

デメリット

シェアハウスと民泊の併用運営には注意すべき課題があります。これらの課題に適切に対応することで、安定した運営が可能となります。

以下では、主要なデメリットとその対策について詳しく説明します。

入居者とのトラブル防止策が必要

シェアハウス入居者と民泊利用者の生活習慣や文化の違いから、様々なトラブルが発生する可能性があります。このため、事前の防止策と適切な対応体制の整備が重要となります。

生活時間帯の違いによる騒音トラブルは特に注意が必要です。深夜のチェックインや早朝のチェックアウト時の音、外国人観光客特有の生活習慣による騒音など、入居者の日常生活に影響を与える要因が多く存在します。そのため、防音設備の充実や利用時間の制限など、具体的な対策が求められます。

共用設備の使用ルールも明確に定める必要があります。キッチンや洗濯機などの使用時間帯、使用方法について詳細なガイドラインを作成し、全ての利用者に周知することが重要です。特に、文化的な違いによる誤解を防ぐため、多言語での説明資料も準備する必要があります。

管理負担増加する可能性がある

シェアハウスと民泊の併用運営では、それぞれに異なる管理業務が発生するため、運営体制の整備が重要な課題となります。適切な人員配置とシステムの導入により、効率的な運営を実現する必要があります。

フロント業務や予約管理、チェックイン・チェックアウト対応など、民泊特有の業務が新たに加わります。これらの業務を効率的に行うためには、予約管理システムや鍵管理システムなどの導入が不可欠です。また、24時間対応可能な体制の構築も必要となり、人件費の増加につながる可能性があります。

さらに、トラブル発生時の緊急対応体制も整備する必要があります。設備の故障や苦情対応など、突発的な事態に迅速に対応できる体制が求められます。このため、緊急時の連絡網や対応マニュアルの整備、スタッフのトレーニングなども重要となります。
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衛生管理と清掃が必要

民泊運営では高水準の衛生管理が求められます。特に感染症対策の観点から、清掃や消毒作業の徹底が重要となります。これらの作業は定期的かつ確実に実施する必要があり、運営コストの増加要因となります。

客室の清掃では、シーツやタオルの交換、浴室やトイレの清掃など、ホテル並みの清掃水準が求められます。また、共用部分の清掃も頻度を増やす必要があり、清掃スタッフの確保や清掃用具・消耗品の管理など、新たな業務が発生します。

感染症対策としては、定期的な消毒作業や換気設備の管理も重要です。特に、パンデミック下では更に厳格な衛生管理が求められ、追加の設備投資や運営コストが必要となる可能性があります。

防犯・セキュリティ対策が必須

シェアハウスと民泊の併用運営では、入居者と宿泊者双方の安全を確保するため、高度なセキュリティ対策が必要となります。これは初期投資とランニングコストの両面で大きな負担となる可能性があります。

まず、建物への入退館管理システムの導入が必要です。電子錠や生体認証システムなど、高度なセキュリティシステムの導入により、不正侵入や鍵の複製リスクを軽減できます。また、防犯カメラの設置や録画システムの運用も必要となり、プライバシーに配慮した運用ガイドラインの整備も重要です。

鍵管理についても、専門的なシステムの導入が求められます。スマートロックシステムの導入により、チェックイン・チェックアウト時の鍵の受け渡しを自動化できますが、システムの維持管理コストや定期的なメンテナンスが必要となります。

シェアハウスと民泊の併用運営で考慮すべき規制とは?

シェアハウスと民泊を併用する際には、複数の法規制への対応が必要となります。これらの規制を適切に理解し、遵守することで、安全で適法な運営が実現できます。

建築基準法の用途制限

建築基準法における用途制限は、シェアハウスと民泊の併用運営において最も重要な法的要件の一つです。用途地域ごとに建物の使用方法が定められているため、慎重な確認と対応が必要となります。

住宅としての使用が前提となるシェアハウスと、宿泊施設としての民泊では、建築基準法上の取り扱いが異なります。そのため、民泊として使用する部分については用途変更の手続きが必要となります。用途変更に際しては、建築確認申請や検査済証の取得など、専門的な手続きが求められます。

また、防火・避難に関する基準も厳格化されます。具体的には、廊下や階段の幅員確保、防火区画の設置、非常用照明の設置など、建築物の安全性に関する様々な基準を満たす必要があります。これらの基準を満たすために、既存建物の改修工事が必要となることも多く、相応の費用負担が発生します。

消防法の設備基準

消防法に基づく設備基準は、利用者の安全確保のために特に重要な規制となります。シェアハウスと民泊の併用運営では、より厳格な消防設備の設置が求められます。

自動火災報知設備の設置は必須となり、煙感知器や熱感知器を適切な場所に配置する必要があります。また、火災時の避難誘導のための誘導灯や誘導標識の設置も求められます。これらの設備は定期的な点検と維持管理が必要となり、専門業者との保守契約も必要となります。

避難経路の確保も重要な要件です。二方向避難の原則に基づき、複数の避難経路を確保する必要があります。避難経路となる廊下や階段には、避難の支障となる物を置くことはできません。また、避難経路を示す避難経路図の掲示や、避難訓練の実施なども必要となります。

自治体条例による営業制限

各自治体では独自の条例により、民泊営業に関する様々な制限を設けています。これらの制限は地域によって大きく異なるため、事前の確認と対応が重要となります。

住居専用地域では民泊営業が制限される場合が多く、営業が可能な地域であっても、営業日数の制限が設けられていることがあります。また、学校や病院の周辺など、特定の施設からの距離による制限が設けられている場合もあります。

さらに、近隣住民への事前説明や同意取得が必要となる自治体もあります。このような地域では、住民との良好な関係構築が運営の前提条件となります。また、騒音や廃棄物に関する規制など、生活環境の保全に関する条例にも注意が必要です。

管理体制についても、自治体独自の基準が設けられていることがあります。管理者の常駐要件や、緊急時の対応体制など、具体的な運営方法に関する規制に適切に対応する必要があります。これらの規制は定期的に見直されることもあるため、最新の情報を常に把握しておくことが重要です。

まとめ

シェアハウスと民泊の併用運営は、適切な準備と対応により実現可能な運営方式です。旅館業法の許可取得や建物の区分けなど、法的要件と実務的な課題に丁寧に対応することが重要となります。メリットとしては、収益構造の多様化やインバウンド需要の取り込み、物件価値の向上などが期待できます。

一方で、入居者とのトラブル防止や管理負担の増加、セキュリティ対策など、運営上の課題にも注意が必要です。また、建築基準法や消防法、自治体条例による規制にも適切に対応する必要があります。これらの要件を満たすことで、安定した運営と収益性の向上を実現できる可能性があります。

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