民泊物件の投げ売り案件が増加している現在、事業継続に不安を感じている経営者も多いのではないでしょうか。家賃支払いの困難さやインバウンド需要の変動により、事業からの撤退を考えている方、あるいは投げ売り物件の購入を検討している方にとって、市場の実態を理解することは重要な課題となっています。

この記事では、民泊物件が投げ売りされる背景から、具体的な価格帯、物件の探し方、さらに購入・売却時のリスクまで紹介します。
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民泊物件の投げ売りはなぜ増えたのか?

SALE

民泊市場における物件の投げ売り現象が急増している背景には、複数の要因が絡み合っています。物件所有者が直面している課題や市場環境の変化について、具体的な状況を見ていきましょう。

賃貸物件の場合:家賃支払いの困難化

民泊事業者の多くが賃貸物件を活用していますが、安定した収入が見込めない状況により、家賃の支払いが深刻な課題となっています。毎月発生する固定費用に対して、予約状況が不安定なことから、キャッシュフローの管理が困難になっているのです。

賃貸物件を活用した民泊運営では、毎月の家賃に加えて、光熱費や通信費、清掃費用なども必要です。これらの固定費は、稼働率に関係なく発生し続けるため、収入が減少すると即座に経営を圧迫します。特に、都心部の物件は家賃が高額なため、数か月の収入低下だけでも資金繰りが立ち行かなくなるケースが増えています。

インバウンド需要の変動により

観光客数の急激な変動は、民泊市場に大きな影響を与えています。特に、外国人観光客の利用が多かった民泊施設では、インバウンド需要の変化により経営の継続が困難になっているケースが目立ちます。

都市部の民泊施設では、外国人観光客向けのサービスに特化した運営形態を採用していた事業者が多く存在していました。しかし、観光客数の予測が困難になったことで、投資回収の見通しが立たなくなり、やむを得ず物件を手放す選択をする事業者が増加しています。

法規制強化の影響

民泊新法の施行以降、運営にかかる負担が増加しています。法令遵守のための設備投資や運営体制の整備が必要となり、小規模事業者にとって大きな負担となっています。

具体的には、防火設備の設置や定期的な安全点検、宿泊者名簿の適切な管理など、様々な規制要件を満たす必要があります。これらの対応には相当のコストがかかり、収益性を圧迫する要因となっています。また、住宅地域での営業日数制限により、収益機会が制限される状況も生まれています。

競合の増加による収益性低下

民泊市場への参入障壁が比較的低いことから、競合が急増し、価格競争が激化しています。特に、大手プラットフォームを通じた予約では、価格が重要な選択基準となるため、収益性の確保が困難になっています。

宿泊単価の下落傾向は、経営の持続可能性に大きな影響を与えています。特に、物件の維持管理費用や清掃費用などの固定費が高い都市部では、採算が取れなくなるケースが増えています。また、評価の高い物件を維持するためには、継続的な設備投資や品質管理が必要ですが、価格競争の激化により、必要な投資が困難になっている状況です。

このように、民泊物件の投げ売りが増加している背景には、経営環境の悪化や構造的な課題が存在しています。物件所有者は、これらの課題に直面する中で、事業継続の判断を迫られているのが現状です。

投げ売りされる民泊物件の価格帯は?

中古価格

民泊物件の売却価格は立地や物件の特性により大きく異なります。投げ売り価格の実態を地域や物件タイプごとに詳しく見ていきましょう。物件価格の把握は、適切な投資判断や売却価格の設定に重要な指標となります。

都市部の相場価格

東京、大阪、京都といった大都市では、民泊物件の投げ売り価格でも一定の水準を保っています。東京都内の場合、通常価格より30%から40%低い価格帯で取引されることが多く、特に山手線沿線の物件では、ワンルームマンションでも2000万円台後半での取引が見られます。

大阪市内では、難波や梅田周辺の物件において、通常価格から35%程度下がった価格での取引が増加しています。特に、商業地域に位置する物件は、将来的な用途変更の可能性も考慮され、投資用不動産として一定の需要が存在します。

京都市内の民泊物件は、観光地としての価値を反映し、町家などの歴史的建造物では、投げ売り価格でも4000万円台での取引が一般的です。ただし、立地条件や建物の状態により、2000万円台での取引事例も出てきています。

地方エリアの価格帯

観光地や地方都市における民泊物件の投げ売り価格は、都市部と比較して大きな値引き率となる傾向にあります。温泉地や観光名所周辺の物件では、通常価格から40%から50%下落した価格での取引が見られます。

地方都市のビジネス街に位置する物件は、事業用途としての転用も可能なため、投げ売り価格でも底堅い需要があります。一方、郊外に位置する物件は、転用の難しさから、通常価格の半値以下での取引も珍しくありません。

観光地に特化した民泊物件では、季節性や観光客数の変動リスクが高く評価され、より大きな値引き率となることがあります。特に、インフラ整備が十分でない地域では、投げ売り価格がさらに低くなる傾向にあります。

物件タイプ別の相場

一戸建ての民泊物件は、建物の規模や築年数により価格差が大きく、投げ売り価格の幅も広くなっています。木造一戸建ての場合、築10年以内の物件でも通常価格から45%程度下落した価格での取引が増えています。特に、メンテナンス状態が悪い物件では、更なる価格下落が見られます。

マンションタイプの民泊物件は、管理体制や設備の状態が価格に大きく影響します。築5年以内の物件では、通常価格から25%から35%程度の値引きでの取引が中心です。一方、築年数が経過した物件では、大規模修繕の必要性から、より大きな値引き率となることがあります。

区分所有物件の場合、管理規約による民泊営業の制限が価格に影響を与えます。特に、管理組合との関係が難しい物件では、投げ売り価格がさらに低くなる傾向にあります。

投資用マンションとして人気の高い物件タイプでは、投げ売り価格でも一定の需要が維持されています。特に、駅近物件や利便性の高い立地では、投資家からの関心も高く、価格下落が比較的抑えられる傾向にあります。

このように、民泊物件の投げ売り価格は、地域特性や物件タイプにより大きく異なります。また、建物の状態や将来的な用途変更の可能性なども、価格形成に重要な影響を与えています。投資判断や売却価格の設定には、これらの要因を総合的に考慮する必要があります。

投げ売り物件の見つけ方は?

見つけ方

民泊物件の投げ売り案件を探す方法には、複数の効果的なアプローチがあります。情報収集の手段を適切に選択し、目的に合った物件を見つけることが重要です。ここでは、具体的な探し方と情報収集のポイントについて解説していきます。

M&Aプラットフォーム

事業譲渡や売却を専門とするM&Aプラットフォームでは、民泊事業者による物件売却の情報が日々更新されています。TRANBIやバトンズといったプラットフォームでは、事業継続が困難になった民泊物件の売却情報が豊富に掲載されています。

TRANBIでは、売却希望価格や物件の収益性、営業状況などが詳細に記載されており、投資判断に必要な情報を効率的に収集できます。特に、決算情報や運営実績といった財務データも確認できるため、物件の実態を正確に把握することができます。

バトンズでは、物件オーナーとの直接交渉が可能なケースも多く、売却の背景や運営上の課題について具体的な情報を得ることができます。また、地域別や価格帯別の検索機能が充実しており、条件に合った物件を絞り込むことが容易です。

これらのプラットフォームを活用する際は、会員登録が必要となる場合が多いものの、専門家による仲介サポートも提供されているため、取引の安全性が確保されやすいという利点があります。

不動産ポータルサイト

大手不動産ポータルサイトでは、投資用物件として民泊向け物件が掲載されています。これらのサイトでは、立地条件や価格帯による詳細な検索が可能で、市場相場との比較も容易に行えます。

物件情報の確認においては、以下のポイントに注目することが重要です。「価格改定」や「価格見直し」といった表現が使用されている物件は、投げ売りの可能性が高く、売主の売却意欲が強い傾向にあります。

また、掲載期間が長期化している物件や、短期間で大幅な値下げが行われている物件にも注目する必要があります。このような物件では、売主との価格交渉の余地が大きい可能性があります。

検索方法としては、「投資用物件」や「事業用物件」といったカテゴリーを選択し、価格帯を市場相場よりも低めに設定することで、投げ売り物件を効率的に見つけることができます。特に、「即決価格」や「相談可」といった表記がある物件は、売主の売却意欲が高いケースが多いです。

さらに、不動産会社の投資用物件専門サイトでは、民泊向け物件の特集ページが設けられていることもあります。これらのページでは、投資収益性や将来性についての詳細な分析情報も提供されており、投資判断の参考となる情報を得ることができます。

地域密着型の不動産会社のウェブサイトでも、地元の投げ売り物件情報が掲載されることがあります。特に、観光地や地方都市では、地域特有の事情に精通した不動産会社を通じて、魅力的な投げ売り物件の情報を入手できる可能性があります。

民泊特化のM&A仲介会社

日本総合政策ファンドをはじめとする民泊特化型のM&A仲介会社では、民泊に関する情報提供やマッチングサービスを展開しています。これらの仲介会社は、民泊市場に精通したコンサルタントを抱えており、物件価値の評価や事業性の判断について専門的なアドバイスを受けられます。

仲介会社を通じた取引では、売り手の事情や物件の詳細な状況把握が可能です。特に、投げ売りの背景となる経営課題や地域特有の運営リスクなども、事前に確認できる点が大きな特徴です。また、取引条件の調整や必要書類の準備など、専門的なサポートを受けられるため、スムーズな取引進行が期待できます。

民泊特化型の仲介会社では、物件取得後の運営支援やリノベーション提案なども行っており、投資後の事業計画策定までをトータルでサポートしています。特に、法規制対応や運営ノウハウの継承について、専門的なアドバイスを得られる点は重要です。

このように、M&Aプラットフォームや不動産ポータルサイトを効果的に活用することで、目的に合った投げ売り物件を見つけることができます。

投げ売り民泊物件を購入・売却する際のリスクとは?

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民泊物件の取引には、通常の不動産取引とは異なる固有のリスクが存在します。購入者と売却者それぞれの立場から、具体的なリスクと対策について詳しく見ていきましょう。

購入する側

購入者が直面する最も重要なリスクは、物件の収益性に関する不確実性です。投げ売り物件の場合、表面的な価格の安さに目を奪われがちですが、収益性が低い根本的な理由が隠されていることがあります。

立地条件による集客の難しさは、見落としやすい重要な課題となっています。一見便利な場所に見える物件でも、実際の宿泊者からの評価が低いケースがあります。特に、騒音問題や治安の懸念がある地域では、予約率の低下につながる可能性が高くなります。

建物の状態も大きなリスク要因です。投げ売り物件では、必要な修繕が先送りにされているケースが多く見られます。特に、水回りや電気設備の不具合は、営業開始後に多額の修繕費用が必要となる可能性があります。また、耐震基準や消防法の適合性についても、詳細な調査が必要です。

法令遵守の面では、前所有者の違反歴や未解決の行政指導が新しい所有者に引き継がれるリスクがあります。特に、住宅宿泊事業法に基づく届出状況や、過去の違反歴については、行政機関への確認が不可欠です。

近隣住民との関係も重要な検討事項です。過去にクレームや苦情が発生している場合、それらの問題解決には時間とコストがかかる可能性があります。特に、マンションでは管理組合との関係改善が必要となることもあります。

売却する側

売却者にとって最大のリスクは、適正価格での売却が困難なことです。急いで売却する必要がある場合、市場価値を大きく下回る価格での取引を余儀なくされる可能性があります。

特に、借入金が残っている物件では、売却価格が借入残高を下回るリスクがあります。この場合、売却後も返済義務が残り、経営破綻につながる可能性も出てきます。金融機関との事前協議や、債務整理の検討が必要となることもあります。

物件の評価額が適切に算定されないリスクも存在します。民泊物件の場合、収益還元法による評価が一般的ですが、営業実績の悪化により、適正な評価額が得られないことがあります。特に、直近の業績が著しく悪化している場合、物件価値が大きく目減りする可能性があります。

売却時の税務リスクも重要な検討事項です。固定資産の譲渡損失が発生した場合、税務上の取り扱いが複雑になることがあります。特に、法人が所有する物件の場合、税務申告の誤りにより追徴課税のリスクが生じる可能性があります。

従業員や取引先との関係処理も慎重に行う必要があります。特に、清掃スタッフや管理会社との契約解除には、適切な手続きと補償が必要となることがあります。未払い賃金や解約精算金の発生も考慮に入れる必要があります。

また、売却後の予約データや顧客情報の取り扱いにも注意が必要です。個人情報保護法の観点から、適切なデータの移管や廃棄が求められます。特に、予約プラットフォームとの契約解除や、キャンセル対応には細心の注意が必要です。

このように、民泊物件の投げ売り取引には、多岐にわたるリスクが存在します。これらのリスクを適切に評価し、必要な対策を講じることが、円滑な取引の実現には不可欠です。専門家への相談や、十分なデューデリジェンスの実施が推奨されます。

まとめ

民泊物件の投げ売りは、経営環境の変化や法規制の強化、市場競争の激化など、複数の要因が重なって発生しています。投げ売り価格は地域や物件タイプによって大きく異なり、都市部と地方では30%から50%の価格差が生じることもあります。

物件を見つける手段としては、M&Aプラットフォームや不動産ポータルサイトが有効ですが、購入・売却どちらの場合も、収益性や法令遵守、建物の状態など、多角的な視点でのリスク評価が不可欠です。投げ売り物件の取引では、表面的な価格の安さだけでなく、将来的な事業継続性も含めた総合的な判断が求められます。